その症状、うつ病だと思っていませんか?うつ病はうつ症状だけが現れる病気ですが、同じようなうつ症状が現れる病気の一つに双極性障害があります。双極性障害はうつ状態と躁状態を繰り返す病気ですが、その多くは「うつ状態」から始まる事が多いとされ、症状がうつ病と非常によく似ているために見分けがつきにくいと言われています。症状は似ていますが、うつ病と双極性障害では治療の目標も用いられる薬も異なる為、正しく理解して適切な治療につなげることが重要です。

双極性障害とは

かつては「躁うつ病」と呼ばれていた病気で、精神疾患の中では気分(感情)障害に分類される疾患の一つです。うつ病が「うつ状態」だけが起こる病気であるのに対し、躁うつ病ではうつ状態に加えてその対極の症状である「躁状態」が現れます。このように、両極端な病状を周期的に繰り返すことから「双極性障害」と呼ばれるようになりました。各病巣の間には欠陥を残さずに正常に回復することが特徴的です。また、双極性障害は精神疾患の中でも比較的治療法やその対処法が整っていて、正しい治療や服薬によって気分の波を適切にコントロールすれば、今までの生活と大きく変わらない日常生活を送ることが可能であると言われています。病気の早期発見や治療継続による再発防止が重要で、逆に発見が遅れたり再発を繰り返すと症状も悪化しやすく治りも悪くなり、社会的・人間関係的な損失が非常に大きくなる可能性がある為、早期の対応が重要と言えます



双極性障害の原因

明らかな原因は解明されていないのが現状です。しかし、次のような遺伝的要素や環境的要素が複雑に絡み合っていると考えられています。

1. 遺伝的要素
双極性障害の発症要因として、遺伝子が深く関与していると言われています。ただ、双極性障害を引き起こす特定の遺伝子が存在するという訳ではなく、いくつかの遺伝子が組み合わさることによって発症すると考えられており、さらに遺伝要因のみで発症する病気ではないということも分かってきています。ほぼ同じ遺伝子を有する一卵性双生児と、半分の遺伝子が一致する二卵性双生児を比較した場合、双子の片方が発症した場合のもう一人の病気の発症率は一卵性双生児の方が確率が高いという結果からも、遺伝的要素が深く関与しているということが伺えますが、同じ遺伝子を持つからといって必ずしも発症するという訳ではなく、原因となる複数の遺伝子をもっていることで発症しやすいと考えた方が良いでしょう。

2. 環境的要因
幼少期の成育環境や親との関係、転勤・昇進・転居・病気・知人の死亡などといった急激な生活環境の変化など、周囲から受けるストレスが双極性障害を発症する誘因の一つとして関与しているのではないかと考えられています。

3. 生化学的要因
脳内の神経伝達物質の異常、分泌のバランスの乱れなども原因として関わっているのではないかと言われていますが、具体的な原因は明確にはなっていないのが現状です。

4. その他(病前性格など)
双極性障害の患者の発症前の性格を調査した結果、いくつかの傾向があると言われています。社交的で親しみやすく気立てがよい、朗らかでユーモアがあるなどといった循環気質という特徴がみられる方が多いと言われています。また、熱心であり几帳面で凝り性といった執着性格という方も多いという傾向があるようです。しかし、このような性格はあくまで発症の可能性がある一つの危険因子として考えられており、これに加えて生活リズムの乱れや睡眠不足、多大なストレスが加わるなどの様々なきっかけが重なることで発症するとされています。



双極性障害の症状と分類

大きく分けて、躁状態(重い躁状態)とうつ状態を繰り返す双極Ⅰ型障害と、軽躁状態(軽い躁状態)とうつ状態を繰り返す双極Ⅱ型障害の二つに分類されます。まずは、双極性障害における「躁状態」「軽躁状態」「うつ状態」とはどのような状態かについて確認しましょう!

1. 躁状態
単純に元気で意欲に満ち溢れているといった状態を通り越し、病的に気分が高ぶっている状態と言えます。感情面では気分は爽快で表情は明るく、感情を露骨に表すようになります。また、些細なことが刺激となって興奮しやすく(易刺激性・易怒性)、注意力が散漫となり気分が変わりやすいといった特徴があります。思考面では考えが次々と浮かんで話題は豊富であるが脱線しやすく、その内容についても誇大的・楽天的である事が多いとされています。また、意欲や活動性が亢進して疲労感を感じにくくなり、睡眠時間も減少します。抑制が効かない状態となることから多動・多弁となり、休むことなく喋り続けたり常識では考えられないような高額な買い物をして多大な借金を作る等して、人間関係が破綻したり社会的な信用を失うといったケースが多いと言われています。

2.軽躁状態
躁状態が明らかに周囲へ迷惑をかけてしまう状態であるのに対し、軽躁状態では多くは周囲との関係に支障をきたす程ではない状態とされています。躁状態と類似点が多く区別は難しいですが、「入院を必要とするほど重篤でない」「幻覚や妄想が存在しない」という点で区別することが出来ます。一見すると気分が良くやる気もあって調子が良さそうという風な良い状態にも見えますが、短時間の睡眠でも平気で動き回るといった様子から、いつもとは違って明らかに「ハイ(High)」の状態で、周囲の人から見れば行き過ぎた印象を受ける場合が多いと言えます。躁状態と基本的な部分は同じで、病的な気分の高揚状態であることに変わりは無いので、トラブルになることが少ないとは言え、治療の対象となる症状と言えます。

※躁状態・軽躁状態共に一般的に病識は欠如すると言われており、患者自身は病的な状態である事に気付きにくい為、治療が遅れたり服薬や通院が不規則になって重症化したりする場合があり、注意が必要な状態であると言えます。特に軽躁状態では本人・周囲の人共に「調子が良い」と思い込み、病院に受診することは少ないので病気であるということを見逃しがちと言えます。うつ症状の前後にこのような「躁」「軽躁」症状は無かったか、受診した際には正確に医師に伝えられるよう、再度自身の症状を振り返ってみましょう。

3. うつ状態
単にやる気が出ない・憂鬱な気分であるという状態ではなく、形容しがたい嫌な気分といった病的に気分が低下した状態を言います。感情面では気分は抑うつで意気消沈し、表情も不活発となります。思考は進まず物事を悲観的に考える様になり、自身を過小評価して些細なことで自分を責め、しばしば自殺念慮を認めるようになります。集中力の低下によって物事を決断できなくなり、話し方や動作も鈍くなります。意欲や活動性は低下し、物事に対して興味が湧かなくなることがあります。身体的には入眠困難で熟睡できずに早朝覚醒する、疲れやすくて体が重だるく動くことが出来なくなる、食欲が低下して体重が減少するといった症状が現れます。これらのうつ症状は、特に朝方に強いことが多いと言われており、夕方には少し症状の緩和がみられるといった日内変動を認めます。

では、続いて双極性障害の分類について詳しく見ていきましょう!
双極性障害は気分が高揚する躁状態と気分が落ち込むうつ状態を繰り返す病気ですが、この気分の波、特に「躁」の状態の程度によって「双極Ⅰ型障害」と「双極Ⅱ型障害」に分けられます。自分の症状が、このどちらに当たるかを理解しておくことは、正しい治療を行い病気の経過をよくするためにも大切なことであると言えます。

「双極Ⅰ型障害」:重い躁状態とうつ状態を周期的に繰り返す
躁状態がはっきりと表れ、その症状が重いという特徴が挙げられます。双極Ⅱ型障害と比較して、明らかに問題となる症状が出現するため、比較的診断は容易であるとされています。Ⅰ型は躁状態が顕著に現れることから、重症化すると他人への攻撃性が増し周囲を巻き込んでトラブルになりやすい為、信頼を失って退職や離婚といった重大な問題に発展することが多く、患者自身のその後の生活に与える影響は大きい状態と言えます。

「双極Ⅱ型障害」:軽躁状態とうつ状態を周期的に繰り返す
軽い躁状態と鬱状態を繰り返すタイプです。軽躁状態とは「気分が異常かつ持続的に高揚し、開放的な状態となる期間が少なくとも4日以上続く」ということが、一つの診断基準となっています。一見すると双極Ⅰ型障害の方が周囲や自分の生活に与える影響も大きいのではないかと感じますが、だからといってⅡ型障害の方が軽いと考えるのは安易と言えるでしょう。その理由についてですが、Ⅱ型障害の特徴として「衝動性」が高いということが知られています。衝動的に行動に移してしまうことが多く、特にⅠ型障害と比べて自殺率が高いと言われており、その他にも摂食障害やアルコール依存所との合併もしばしば認めることから、軽躁状態といえども軽く考えてはいけないのです。また、軽躁状態では本人も周囲の人も病気であると認識しにくいことから、うつ状態ばかりに目が行って「うつ病」と診断されてうつの治療のみを行っていて、なかなか症状が改善されずに深刻な悩みを抱えている人も少なくないのです。

「気分循環症」:気分の波はあるが軽い躁と軽いうつを繰り返すにとどまるタイプ
Ⅱ型障害よりもさらに病気と認識されにくく、情緒不安定に見え、「性格」だとして片づけられてしまうことも多いため、注意が必要な状態であると言えます。軽い躁状態と軽いうつ状態を繰り返すことが二年以上続き、症状のない穏やかな時期が二か月続かないといったときに、この気分循環症と診断されます。社会生活に著しい障害をきたすことは無いが、場合によっては結婚生活や恋愛関係が破綻することもあり、治療が遅れたり放置すると双極Ⅰ型障害や双極Ⅱ型障害へ病状が悪化する事があるので注意が必要です。


今回は、双極性障害とはどのような病気で、この病気がどのようにして起こり、どのような症状を示すかという事についてお伝えしました。うつ病との鑑別が難しく適切な治療を受けられていない方も多い病気ですが、正しく治療を行って気分の波をコントロールすれば改善出来る病気なので、病気についての理解を深めてより自分にあった治療を受けましょう。